ニホンジカと列車との衝突事故防止を目指して
岩手大学農学部動物科学課程松原研究室 プロジェクト研究員 西 千秋
近年、ニホンジカの生息域が広がってきている。生息域が広がると同時に人間との軋轢も生じている。その1つに山間部を走る鉄道との衝突事故が挙げられる。列車とニホンジカの事故件数は年々増加しており、ダイヤの乱れ、安全な運行、輸送に支障をきたしている。ニホンジカと列車との事故防止のために沿線にネットを張るなどの対策もされているが、沿線距離が長いこと、維持管理にかかる労力が多いことなどから、現実的ではない部分も多い。そこで考えられたのが、肉食獣の排泄物のニオイを利用した被害対策である。ニホンオオカミが絶滅して以来、ニホンジカを補食する肉食獣は日本には棲息していないため、まず、どの肉食獣の排泄物のニオイをシカが避けるのかということを試験した。試験に用いたのは排泄物から抽出した物質である。試験は専用の試験場で、1週間にわたり設置した通路の通過回数を数え評価した。その結果、ニホンジカの1週間の通過回数は、オオカミと比較し、ライオンの排泄物の方が有意に減少(P<0.001)することが示唆された。そこで、実際にJR東日本盛岡支社管内の事故件数の多い区間に散布した所、散布箇所では、最大5か月間にわたりニホンジカと列車との事故が減少した。現在、大量精製に向けて、効率の良い精製方法を検討し、製品化に向けて精製方法の確立を行っている。なお、本研究はJR東日本との共同研究である。