農研機構 果樹茶業研究部門 茶業研究領域 上級研究員
現在、リーフ茶の消費が低迷する中で、抹茶や機能性茶飲料の需要は増えており、お茶のニーズの多様化が進んでいます。本事業では、抹茶・粉末茶や健康機能性等、多様な実需に対応できる4品種とその栽培・加工技術を開発しました。今回、農研機構が開発した抹茶・粉末茶向け品種「せいめい」の特徴と栽培・加工技術の研究成果を中心に、機能性品種「MK5601」、香り品種「きよか」、宮崎県育成の緑茶品種「暖心37」の研究成果を紹介します。これらの新品種と新技術は、日本茶業の活性化に貢献が期待されます。
農研機構 畜産研究部門 畜産環境研究領域 上級研究員
家畜ふん尿に由来する窒素は、河川等の窒素汚染の原因の一つとなっています。そのため、畜産廃水処理において、畜産農家に導入しやすい窒素除去技術の開発が求められています。本課題では、”活性汚泥モデル“を用いて、畜産廃水の活性汚泥処理施設の窒素除去を考慮した運転方法について明らかにしました。さらに、活性汚泥処理のみで十分な窒素が除去できない場合に対応するため、新規窒素除去反応を行うアナモックス菌の利用についても検討しました。
水産研究・教育機構 瀬戸内海区水産研究所 海産無脊椎動物研究センター 貝類グループ長
タイラギは、ホタテガイと並び大型の貝柱が特徴的な美味しい二枚貝ですが、天然資源は枯渇寸前で、国産のものはなかなか食べることが出来ません。水産研究・教育機構瀬戸内海区水産研究所では、これまで困難であった人工種苗生産技術を開発し、養殖技術の開発に取り組んで来ました。その結果、人工種苗を用いた完全養殖サイクルによるタイラギ養殖技術がほぼ完成しつつあります。希少なタイラギを、輸入に頼らず安全・安心な国産貝の養殖で供給できるようにすることが私達の夢であり、是非、収益性の高い新たな養殖産業の創出に向けたご協力を期待しています。
東京海洋大学 学術研究院 海洋生物資源学部門 准教授
クロマグロの資源量は歴史的最低水準にあり、早急な資源回復が求められています。このため、我が国では体重30kg未満の小型魚の漁獲が厳しく制限されています。一方、我が国の沿岸には多数の定置網が設置されています。定置網には多種多様な生物が混在して入網しますが、クロマグロ小型魚の漁獲量が制限に達すると、たとえ他の魚が獲れていたとしても、操業を停止せざるを得ない状況に陥ってしまいます。そこで本研究では、定置網に入網した多種多様な生物の中から、クロマグロ小型魚を生きた状態で選別し、健全な状態で網外へ放流する技術を開発しました。
農研機構 高度解析センター センター長
窒素肥料は農作物の安定的な生産や品質の維持向上に必要不可欠です。しかしながら、施肥窒素の約50%は、土壌中の硝化菌により水系汚染の原因となる硝酸性窒素や強力な温室効果を持つ一酸化二窒素に変換されて浪費されています。本研究では、窒素肥料の損失防止と環境負荷低減化の両立を目指し、標的硝化菌酵素(アンモニア酸化細菌のヒドロキシルアミン酸化還元酵素HAO)の立体構造情報と土壌メタゲノム情報に基づいて、土壌に棲息する多様な硝化菌に効果のある広スペクトラムHAO標的型硝化抑制剤の開発に世界に先駆けて取り組みました。
愛知県農業総合試験場 山間農業研究所 主任研究員
愛知県と農研機構が共同で開発した「愛知糯126号」は、アミロペクチンの糖鎖が短鎖化した糯米新品種です。アミロペクチンの短鎖化により、餅のやわらかさが持続し、餅以外の加工品でも和菓子、おこわ、パンなどでやわらかさ保持性の特長を活かした商品開発が期待できます。糯品種としては多収で、画期的な加工特性を持つ「愛知糯126号」の栽培特性と加工特性を紹介します。
栃木県農業試験場 部長補佐兼麦類研究室長
低リポキシゲナーゼ特性を有する「サチホゴールデン」準同質遺伝子系統の新品種「ニューサチホゴールデン」と、被害粒の発生が少なく多収で国内全てのオオムギ縞萎縮ウイルス系統に抵抗性を有する新品種「はるさやか」を育成しました。両品種の高品質安定多収栽培法を確立してマニュアル化し、普及推進に役立てました。実需者による評価試験を通して、「ニューサチホゴールデン」の低リポキシゲナーゼ特性がビールの香味安定に大きく貢献すること、「はるさやか」の製麦特性が標準の「サチホゴールデン」とほぼ同等であることを明らかにしました。
宮崎県総合農業試験場作物部 主任研究員
鹿児島県工業技術センター食品・化学部 研究専門員
農研機構 九州沖縄農業研究センター 業務第3科長
現在、原料用サツマイモ栽培は、採苗・本圃植付け(挿苗)作業はほぼ人力で行われており作業負担が大きく、人手不足が深刻化し作付面積は減少傾向にあります。そこで採苗・挿苗作業を中心に軽労・省力化を目的に、機械化に適した小苗(慣行苗より小型な茎長15cmの苗)の栽培技術の開発を行いました。これにより生産コストは6%、作業時間は30%削減されました。また、小苗栽培は苗が小さいため慣行栽培に比べ収量が劣りましたが、密植栽培や採苗間隔が短いことを生かし、在圃期間を延長することで慣行並みの収量を得ることを可能にしました。
奈良県農業研究開発センター 育種科長
ビーフライ利用コンソーシアム(奈良県、(株)ジャパンマゴットカンパニー、岡山大学、島根県、農研機構西日本農業研究センター)では、イチゴ栽培におけるミツバチの補完ポリネーターとして、ヒロズキンバエ(商品名:ビーフライ)を有効利用する方法を確立すべく、試験研究を行ってきました。その結果、適切な蛹投入数・頻度、利用可能な品種、農薬や施設内環境の影響、導入費、効率的な幼虫飼養方法などを明らかにし、生産者が利用するに際して注意すべき点を整理した「ビーフライ利用マニュアル」を完成させることができました。
農研機構 果樹茶業研究部門 リンゴ研究領域 主任研究員
リンゴ産地の競争力強化を目指した品種更新や改植による効率的な栽培体系の導入を進めるためには未収益期間を短縮する早期成園化技術が不可欠ですが、各産地の実情に合わせた技術開発が課題となっています。本研究では産地各県の試験機関や生産者と連携し、産地の状況に対応した栽培管理や雪害対策に関する新技術の開発を進めるとともに、既存の当該技術を産地の実情に合わせて改良する取り組みを進めてきました。また、岩手県奥州市と青森県弘前市に実証圃を設け、生産者の導入判断に資する経済性評価を実施しております。今回はこれらの概要を紹介します。
農研機構 農業技術革新工学研究センター 戦略統括監付戦略推進室 農業機械連携調整役
養豚業では衛生管理上、豚舎の洗浄・消毒作業は非常に重要である一方、洗浄作業は過酷な作業環境での重労働を伴うため、離職する人材が相次ぎ、人手不足が大きな問題となっています。そこで、洗浄作業の大部分を担え、日本の中小規模の養豚農場にも導入可能な豚舎洗浄ロボットの開発に取り組みました。
本コンソーシアムでは、高機能型肥育豚舎用、低価格型肥育豚舎用、分娩豚舎用の3種類の洗浄ロボットを開発し、現地試験を通して省力効果、洗浄効果、経済効果を明らかにし、このうち、市場ニーズが最も高い低価格型の市販化を先行し、開発を継続中です。
福井中央魚市 養殖プロジェクトチーム顧問
福井県は、若狭湾という養殖に適した地形を有しますが、養殖生産量は極僅かであり、福井の環境に適した新たな養殖魚種が求められていました。そこで我々は、2014年から、福井県でのニジマスの海面養殖の事業化を目指した活動を推進してきました。海水で育ったニジマスは「トラウト」と呼ばれ、サケマス類の中で最も商品価値が高いことが知られています。本講演では、福井県内の産官学で構成されたコンソーシアムで取り組んできたニジマス養殖に関する研究と、その研究成果に基づいた県内一貫生産による新たなブランド「ふくいサーモン®」を紹介します。
立命館大学 准教授
露地野菜栽培について労働力不足や高齢化が進んでいます。特に主要なキャベツ、タマネギを対象に、省力化を実現し、労働ピークを軽減化して更なる規模拡大を行いやすくするため、栽培、防除、収穫、調製、運搬等、労働集約的作業をロボット化・自動化する作業機械をディープラーニング等のAI技術やロボット技術により開発しています。具体的には、野菜収穫ロボットシステム、野菜収納コンテナ搬送システム、コンテナ運搬ロボットフォークリフト、精密防除ドローンの開発を進めています。
森林研究・整備機構 森林総合研究所 木材加工・特性研究領域 木材機械加工研究室 室長
人工林の高齢級化に伴い大径材が増加しており、これまで国産材率が低かった横架材等としての利用が期待されていますが、強度などの品質や供給に不安があります。そこで、丸太段階で製材品の強度等の品質を予測し、効率的に生産する技術の開発を進めています。本課題ではまず、丸太段階で製材品のヤング係数を推定することを可能にしました。このヤング係数と大径材から得られる製材品の強度特性との関係を明らかにすることで、丸太段階での製材品の強度予測を可能にします。また、大径材の効率的な製材方法や横架材の乾燥方法についても検討しています。
東京大学 先端科学技術研究センター 助教
安心・安全な飲食料品の確保のために、ごく微量の異臭を現場で簡便に検出する技術が求められています。我々は、昆虫の優れた嗅覚機能に着目して、高感度に対象の匂い物質を検出する技術の開発を進めています。本課題では、昆虫の嗅覚受容体を用いて、カビ臭成分であるジェオスミンを検出して蛍光応答を示す細胞系統を開発しました。また、この細胞系統を小型蛍光計測器と組み合わせることで、水源ダム湖畔でのジェオスミン検出に成功しました。今後、飲食料品を対象とした実証試験、計測器の製造方法・販路の確立を通して、安心・安全な食の実現に貢献します。
農研機構中央農業研究センター 上級研究員
飛ばないナミテントウは重要害虫アブラムシの防除に有効な天敵であり、施設野菜用の生物農薬として販売されています。今後施設野菜において広く普及し、露地野菜でも実用化されることにより、安全・安心な農産物の提供や化学農薬散布にかかる生産者の作業負担の軽減等への貢献が期待されます。本講演では、飛ばないナミテントウの定着を増強し、放飼頭数を減らしても十分な防除効果が得られる代替餌システムの開発、代替餌資材の実用化、代替餌システムを導入したIPM体系の構築等について取り組んだ成果について報告します。
農研機構 果樹茶業研究部門生産・流通研究領域虫害ユニット 上級研究員
<w天>防除体系は環境にやさしい持続的な果樹のハダニ管理技術です。ハダニは化学合成農薬(殺ダニ剤)に対する抵抗性の発達が早く、化学農薬頼みの現在の防除には限界があります。また、果実輸出の推進においては、相手国の残留農薬基準値に配慮した農薬の使用が求められ殺ダニ剤の使用が制限されます。そこで、“果樹園に自然に生息する土着天敵”と“製剤化された天敵”の夫々の長所を最大限に活かすことをコンセプトに、ハダニの有力な天敵であるカブリダニの活用を基軸とする、殺ダニ剤への依存を大きく減らしたIPM体系を確立しました。
名古屋大学大学院生命農学研究科 准教授
『接ぎ木』は果樹や果菜の栽培に欠かすことができない、日本で発展した世界に誇る農業技術です。私たちは接ぎ木を科学することで、画期的な接ぎ木技術の開発を進めました。その一つが[トマトを高糖度化し、低温障害を回避する接ぎ木システム]で、高糖度化台木を用いることで、特別な栽培管理を必要とせずに、トマトの糖度を2度程度上昇させることに成功しました。もう一つが、あらゆる植物に接ぎ木できる驚異的なタバコ属植物の接ぎ木能力に着目した[接ぎ木活着を向上させる接ぎ木接着剤の開発]です。今回の発表ではこれらの技術開発について紹介します。
秋田県立大学 生物資源科学部 教授
これまで、カレーやピラフ等の洋食メニューに合うパラパラした食感のお米の品種には、インディカ米の系統が導入されていました。
イノベーション創出強化研究推進事業等を活用し、秋田県立大学が研究を重ねた結果、純ジャポニカ米由来なのに、パラパラ食感が楽しめる新品種「あきたぱらり」が開発されました。
「あきたぱらり」の他に、血糖値上昇抑制作用やダイエット効果も期待されている難消化性でんぷん(レジスタント・スターチ)が通常のお米の10倍含まれた、「A6」も今年度品種登録申請します。
北海道立総合研究機構 林産試験場 利用部 研究主幹
きのこの生産では、子実体から大量に飛散する胞子による施設汚染や生産者の健康面への影響等の解決と、市場競争力を有する品種の育成が早急に求められています。突然変異による有用形質の迅速な導入育種技術の開発は、その有効な手段の一つです。一方、実需者や消費者からは、機能性や有用形質を有する品種のニーズが高まっています。本研究では、タモギタケの紫外線照射誘導変異体を基盤に、無胞子性変異を有し、かつ機能性成分であるエルゴチオネインを多く含む品種の開発、およびDNAマーカーによる選抜等の効率的な導入育種技術を開発しました。